「人情味がない,横柄,スタッフが気の毒」(東京地決令元・8・14)

口コミの発信者情報開示請求事件

検討ポイント

✅意見論評
✅社会的評価の低下

口コミの内容

口コミの具体的な表現は公開されていないため把握できませんが,決定文の要約によると,①「人情味がない,横柄,スタッフが気の毒」,②「予約で埋まっていて2週間後になったが,痛いときに見てもらえないのでは意味がない,期待外れ」といったことが書かれていたと思われます。

裁判所の判断

いずれの表現も抽象的な印象を述べるものであって,証拠によってその存否を決することができるものではないから,債権者主張部分も意見論評と読むほかない。
歯科医師等の対応から患者や従業員が受ける印象は,その主観に委ねられ,多種多様であって,各人ごとに歯科医師等の対応に対する評価が異なって当然である。本件記事1は,投稿者が債権者に対する主観的かつ抽象的な印象を記載したものにすぎないから,債権者の社会的評価を低下させるとまでは言えない。

債権者は,本件歯科医院で勤務する債権者の妻の陳述書(甲16)における,債権者が患者や従業員に対して横柄な態度を取ったり,冷たい対応をしていることを見たことがないとの記載

しかし,これらの資料は,あくまで一部の患者や従業員が債権者に対して抱いた印象を述べるものにすぎないから,好意的な良い評価を受けうる対応をしたことがあったという事実を疎明するにとどまり,人情味がない,横柄等の評価を受ける対応等が行われていなかったことの疎明としては不十分である。

患者が緊急の処置を要望しているとしても,当該状況において応急処置が必要であるか否かは歯科医師が判断すべき事柄である上,当該歯科医院の繁忙度や予約状況等から物理的に処置ができないことも当然にありうるのであるから,患者の希望通りの時期に処置が行われるとは限らない。したがって,2週間後の予約しかとれなかったなどとする本件記事2の事実摘示によって,債権者の社会的評価は低下しない。

急患に対する適切な対応を欠くものとして仮に債権者の社会的評価を低下させるとしても,事実摘示部分及び意見論評の前提となる事実について反真実の疎明はない。

東京地決令元・8・14(令和元年(ヨ)第1683号)

ポイント

具体的な表現が明らかではないため断言できませんが,「人情味がない,横柄,スタッフが気の毒」といった趣旨の口コミは,個人の感想表現なので,意見論評と考えるのが一般的です。意見論評は違法性阻却事由の立証が難しいため,なるべく事実摘示だと言い切って主張することになります。本件も,おそらくその方針で事実摘示だと言い切ったのでしょうが,裁判所は意見論評だと判断しています。

ただ,意見論評に過ぎないから社会的評価を低下させない,という趣旨の判示であれば理由付けが違うと思います。最高裁は,「名誉毀損の不法行為は(中略)これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである」としているからです(最三小判平9・9・9ロス疑惑訴訟夕刊フジ事件上告審,民集51巻8号3804頁)。
実際,この決定は,反真実性の疎明があるかどうかという判断もしており,端的に「人情味がない,横柄,スタッフが気の毒」との表現では社会的評価は低下しないと言い切れなかったのだろうと想像します。

真実性立証については,やはり「陳述書」が利用されているようですが,「人情味はあります。横柄ではありません。」という内容の陳述書を書いたところで,もともと個人の感想に属する表現ですので,決定が「あくまで一部の患者や従業員が債権者に対して抱いた印象を述べるものにすぎない」と認定したのもやむを得ないと考えます。

他方,「2週間後の予約しか取れなかった」は,歯科クリニックなら普通のことだろうと思うため,社会的評価を低下させないと判断されたことも,やむを得ないものと考えます。